azukki的. 姉妹猫mao(黒)とmeo(銀)、保護猫ノア(黒白) 空と花と石と美しいもの。

『平清盛』第45回「以仁王の令旨」覚書


前回ラスト、暗黒の画面でぷつりと切れた物語。
今回、清盛は、まるで暗闇の中の人のように、その目は何かを見ているようで見ていない、
そう、ある瞬間までは。






アバンタイトル。
「反平家の関白基房等を追いやった清盛。さらに一門に反発する勢力を次々と退け、ついには後白河法皇をも幽閉してしまいます。治承三年の政変。清盛による軍事クーデターでした。最後の切り札は、孫言仁(ときひと)の即位。世は清盛の思うままに動いていました。」

   「いかがにござりますか。そこからの眺めは。」





本編。

【この世の頂に立った清盛の事】

福原、清盛の館。
黄金の裘代(きゅうたい)をまとった清盛の老いが加速している。まるで白河院。
(宋銭のネックレスをつけていない。盛国が清盛のために作った、新しい国作りの象徴のようだったネックレスを。)
盛国に尋ねる。
「譲位の件はどうなっておる。帝はいつ言仁様に譲位なさるおつもりじゃ。」
「それにつきましては、朝廷内にて異を唱える者も多いとのこと。」
「未だわしの国作りに不満を唱える者がおるのか。」
「ただ、帝は御年二十歳。言仁様は三つ。いささかお若過ぎるのではないかとの声が。」
「いずれにせよ政を行うはこのわしぞ。六波羅に使いを出せ。」
「承知。」
手酌で酒を飲む清盛。
これまで、宴の場以外でこんなことはなかったと記憶する。

ナレーション(=頼朝。以下ナ)「治承四年春。清盛はこの世の頂にいた。朝廷の要職はことごとく清盛にゆかりの深い方々で占められた。その要となられたは時の帝高倉帝と新たに内大臣となった基通様、そして新たに平家の棟梁となった宗盛の三人であった。」

内裏。
宗盛「わが父清盛入道が東宮言仁様への一日も早いご譲位を望んでおりまする。」
帝の側近「院として政を行うにはあまりにも年が浅いとご懸念であらせられます。
宗盛「そこはご安心を。我ら平家一門がお支えいたします。来月にもご譲位のお運びとなされては。」
基通「すぐにも事を始めねば。」
高倉帝のもの言いたげな表情が美しい。

ナ「清盛は福原にいながら京の政を意のままに操っていた。」







【八条院暲子、源三位を鼓舞しようとする事】

ナ「一方、治承三年の政変で最も不遇を囲われたのが後白河法皇の皇子以仁(もちひと)様であった。莫大な財をもつ以仁様の力を削ぐため、清盛にその所領を奪われたのである。」

以仁は家人の闘鶏を虚ろに眺めながら言う。
「私は齢三十になりましてござります。この三十年に我が兄や甥、弟らが次々と即位し、此度は御年わずか三つの東宮言仁様が即位の運び。八条院様、私は何のために王家に生まれてきたのでござりましょう。いや、何のために生まれてきたのでござりましょう。」
無言で見守る八条院。
以仁の目から一筋の涙。
(崇徳院、後白河法皇も同じような境遇にあり、同じような台詞を言った。)

八条院暲子は源頼政を呼ぶ。
「生まれたときより羽根をもがれた鳥のごとき以仁様がおいたわしゅうてならぬ。源三位(げんざんみ)頼政。力を貸してはくれぬか。」
頼政「入道様のお慈悲でようやく公卿に登った身。朝廷において何の力も・・・」
「朝廷においての話ではない。源三位。そなた、元は何者ぞ。鵺退治で勇名を轟かせた源氏随一の武者であろう。このまま一生を終えてよいのか。」
「平家に逆らうなど、愚の骨頂。余生を心穏やかに暮らし、いずれあの世で義朝様にお目通りかないましたならば、そこで改めてこの首、刎ねていただくつもりでござります。」
「いささか買いかぶっておったようじゃの。源氏の魂とやらを。
もうよい、下がれ。いかなる手を使うても私が以仁様をお救い参らせる。」







【清盛の政が伊豆を怒らせる事】

ナ「清盛による政の波紋は各地に広がっていった。」

伊豆、北条時政の館。
畑仕事をする時政のところに伊豆国目代山木兼隆がやってくる。
政子が嫁ぐはずだった相手。
花嫁に土壇場で逃げられた男。
山木「都よりいささか租税を増やせとのお達し。まもなく帝が退位あそばされ、東宮様がご即位の運びとなる。その後ろには清盛入道様がおられる。今やこの国は入道様の思うがまま。時政殿。平家と縁深い私との婚儀を反故にし、源氏の御曹司に娘をめあわせたこと、悔やんでも悔やみきれますまい。」
時忠は無言。

頼朝の館。
時政「このままでは伊豆に限らずあちこちで皆の不満があふれ、狼藉者が暴れ出すやもしれぬ。」
政子「入道様はそれを何にお使いになるつもりなのですか。」
時政「御孫君のご即位や福原の町作りとのことじゃ。」
政子「なんと、ご自分のためばかりではござりませぬか。」
藤九郎「国の頂に立ち、欲に取り憑かれておるのでござりましょう。」
時政「いよいよ、時が迫っておるようじゃな。」
そのとき、弓矢の装備を整えていた頼朝が立ち上がり、弓を構える。
緑の装束。母、由良の色だ。
皆が見守る中、矢は的を大きく外す。
あまりのことに無言の一同。
「しばらく武芸から離れておったゆえ。」取り繕う頼朝。
再び構えようとすると、政子、低く「殿、足幅をもう少し。」
「すまぬ。」
(弓矢の腕は政子が上。)










【藤原秀衡、義経の後ろ盾となる事】

場面は奥州平泉へ。
弓矢を構えるのは義経。
金に日の丸の扇を見事射抜く。
弁慶、「お見事にござります。」と言うなり、薙刀を振り回し、義経に挑む。。
弓で立ち会う義経がふと視界から消えると、いつのまにか離れたところに太刀を掲げて立っている。
義経の瞬間移動術は健在か。
太刀を抜き、弁慶の薙刀を受ける義経、見合ってにやりとする二人、まるでじゃれ合うように、しかし立ち会いは真剣で、弁慶は薙刀を取られ地面に二回転。
大男のくせにあっけなく転がる弁慶と、涼やかに笑う華奢な義経。
(五条大橋の出逢いと同じく、どこかユーモラスに描かれているのが好感。)

ナ「その頃、我が弟九郎義経は奥州平泉の藤原秀衡のもとにいた。奥州藤原氏は平泉において独自の国作りをし、京に継ぐ大きな町を築き上げていた。」

秀衡「ちょうど十年前、私は鎮守府将軍に任ぜられた。それを利用して奥州の金や諸々の財宝を我が物にしたお方がおる。」
義経「入道様にござりますね。」
秀衡「さよう。入道はそれらの財を宋国へと贈り、平家一門はいっそうの財を築き上げられた。されど、年端もゆかぬ孫を帝にされ、おのが思うがままに国を動かそうとは、我らには思いもつかぬ、外道のわざ。」
泰衡(秀衡の子)「今やこの国のほとんどは平家がもの。いずれはこの平泉にも押し寄せてこぬとも限りませぬ。」
秀衡「そのときには、九郎殿。」
秀衡は奥から進み出て、庭に被せてあった覆いを取らせる。
覆いの下から現れたのは、金色の鳳凰と無数の黄金。
秀衡「この平泉一万騎、築き上げた財力。ご随意にお使いあれ。この秀衡、そなたこそ、古今に比類なき名将の器と見ておりまするぞ。」
北の王国、黄金郷平泉の豪華絢爛。
烏帽子にまで金をあしらった、秀衡父子の金ずくめの装束、調度も金。
はらはら舞い落ちる雪、雪の中の赤い傘、輝く黄金の鳥。
(この鳥は鳳凰に見えましたが、秀衡と金の鶏の言い伝えがあるので鶏なのかもしれません。未確認。)
(書き忘れていましたが、骨つきチキンを頬張ってあまりの美味しさに目を輝かせる弁慶、の直後、金色の鳥に目を丸くする弁慶が微笑ましくて愛おしくてなりません。)






【高倉院初の御参詣に揉める事】

ナ「各地で反平家の動きが盛んになる中、二月二十一日、かねてよりの清盛の望みどおり、高倉帝が譲位して言仁様が即位。安徳帝となられた。」

鬟(みずら)姿の安徳帝のなんと愛らしいこと。
ひとつの駒のように先送りされる高倉帝、物言わぬ透き通った瞳。

ナ「新院高倉上皇のもとで、平家に親しい公卿たちがこぞってその臣となり、上皇になって初めての寺社ご参詣が行われることとなった。ここでまた清盛は慣例を破ることを言い出した。」

福原。
清盛「上皇様が厳島の社へご参詣なさるよう手配をせよ。まずはこの福原へ御幸いただき、そこから船で厳島へ向かっていただく。」
宗盛「それはよいお考えにござりますな。」
盛国「されど、朝廷ではまた一悶着ありましょうな。賀茂や日吉(ひえ)といった都近辺の社へのご参詣が慣例にござりますゆえ。」
清盛「法皇様も建春門院様とともにご参詣なさった。何より、厳島は交易を要とした新しき国の守り神となるべき地。上皇様の初のご参詣は厳島の社でなくてはならぬ!それがわからず異を唱える者あらば解官してしまえ!」
豊藤太「だんだん言うことが理不尽になってきておるのう。」
荒丹波「かしらが生きておれば必ずや諌めたのであろうが。」
成長した小兎丸がそれを聞いている。
拳を握り締め、何か思う様子。
盛国「小兎丸。殿はまだ道半ばにおられる。ご自分にしか見えぬ国作りに邁進するためには理不尽にならざるをえぬときもあろう。」
兎丸と同じように頭に「はっぷり」をあしらった小兎丸のまっすぐな目。
(兎丸に投影されていた平家の「良心」に正義をプラスして純化したような、内に何かを秘めたまなざし、一瞬だけれど、とてもいい表情、いいキャスティング。)

ナ「そして、ご参詣先が決まった。」

朝議の場。
(右列、一番手前は儀式儀礼考証担当の佐多芳彦氏、特別出演。)
内大臣基通「上皇様のご参詣先は厳島の社といたす。」
右大臣兼実「おそれながら、それは前例になきこと。」
基通「叔父上。これは入道様のご意向ですぞ。」
経宗「ご意向じゃと、ただの厳島びいきではないか。」
兼実「さようにござりますか。入道様の。ならば従うよりほかござりませぬな。」
宗盛、教盛、時忠は、清盛の意に従う決定を当然のように見ている。

ナ「しかしこの決定に激しく怒る者たちがいた。」

比叡山延暦寺。
金覚「此度の一件、許し難し!」
強訴です。

ナ「日頃は仲悪しき延暦寺、興福寺、園城寺が手を組み、高倉院の厳島ご参詣をやめさせるべく動き出した。」

銀覚「入道を引きずりおろせ!」



髭をいじり、落ち着かない宗盛。
知盛がやってくる。
「知盛、遅いぞ!」
走り寄る宗盛、ここまでの描写で早くも棟梁としての威厳のなさを醸し出す。
知盛「兄上、いかがなされました。」
重衡も来る。「宗盛の兄上、どうなされました。」
宗盛、気を落ち着けるように一息吐いてから
「悪僧どもが手を組み、鳥羽離宮の法皇様をお連れ参らせ、高倉の上皇様をさらい奉るつもりらしい。」
重衡「それは一大事。」
宗盛「どうしたらよいのじゃ。」
知盛「落ち着かれませ。まずは私が兵を連れ院の御所を警護いたしましょう。」
宗盛「おお、そうせよ。」
重衡「法皇様のおわす鳥羽離宮にも誰ぞやりましょう。」
宗盛「それがよい、それがよい。頼んだぞ。」
狼狽して自分では事を決められない頼りない新棟梁を、影から見ている叔父教盛。

ナ「結局、平家の武力を恐れた寺社は事を構えはしなかったが、高倉院のご参詣は予定より遅れ、清盛は大いに機嫌を損ねた。」





【清盛と酒と白拍子、頼朝と髭切と武士の心の事】

福原。
上目遣いでうろうろと歩き回り、苛々した様子で酒盃を投げつける清盛。
「新帝即位の儀はここ福原で執り行う。」
盛国「おそれながら、その儀は都にてと決まっておりまする。」
「帝は新しき世をかたどられるお方ぞ。この福原を都とする新しき世を。」
「では・・・」
「言仁様が帝となられた今、すみやかに都をこの福原に遷す。」
「ご承知のとおり、既に都では即位のための大極殿の建立が進められて・・・」
「さような物に財を投じずともよいと宗盛に念を押せ!よいか、十一月の大嘗会(だいじょうえ)だけは何としてもこの福原で執り行う。さよう都にしかと伝えよ!」
「承知つかまつりました。」
「あってはならぬ。我が意のままにならぬものなど、あってはならぬ。どれだけの犠牲を払ってここまで来たと思うのじゃ。
瓶子から直に酒を飲む清盛を盛国は眉をひそめて見ている。
そこへ家来が。
「殿にお目通りを願い出る者が参っておりまする。」
「誰じゃ。」
宋風の衣装に身を包んだ白拍子二人の姿に清盛は目を向ける。
桃色の白拍子「祇王にござります。」
緑色の白拍子「祇女にござります。」
「我ら姉妹の舞、入道様にご覧いただきたく。」


 伊豆。夜。
 髭切を抜き、振り回す頼朝。
 政子「なんと勇ましいお姿。皮肉なものでござりますな。
 それをあなた様に授けた入道様が今や武士の心を忘れておられるとは。」
 頼朝「果たして忘れてしまわれたのであろうか。私にはそうは思えぬ。」
 笙の音が響く。


清盛の前で祇王祇女が踊り続けている。
清盛の目は何かを見ているようで見ていない。
何も楽しんでいない目。


 頼朝「きっと通らねばならぬ道なのであろう。武士の世を作るために。」


祇王の舞を虚ろな目で追う清盛。


 政子「たとえそうであっても殿はいつか立ち向かわねばなりますまい。
 平清盛というお方と。」


酌をする祇王を抱き寄せる清盛。
盛国は見ている。
暗転。






【宗盛の竹馬と仲綱の馬の事】

京、宗盛の館。
宴に浮かれている。

  「極楽浄土の目出度さは 一つも仇なることもなき
  吹く風 立つ波 鳥も皆 妙なる法(のり)をぞ唱ふなる」
  (「梁塵秘抄」に収められている今様)

時子がやってきて諌める。
「宗盛!棟梁となってよりこちら、この宴三昧は何ごとじゃ。」
「我ら公卿ゆえ折につけ宴を行え、とは父上のお言葉。」
「それは務めを果たした上でのことじゃ。そもそも重盛が身まかって一年もたたぬうちに、かように贅を尽くした宴などもってのほか!」
「それゆえにこその宴にござります。」
「何と。」
「重盛の兄上は道理を重んじる方にござりました。それゆえ道理にのっとり、正妻の子たる私が棟梁となれるよう、早々に身まかられたのでござりましょう。この宴は、心優しき重盛の兄上のご冥福を祈る宴にござります。」
みずから盃にそそぐ酒がみるみる溢れていく。
宗盛の何かが壊れている。
時子は一言「情けなや。」
宗盛の顔色が変わる。
時子は法衣を翻して出て行く。

そこへ、「父上、父上!」
宗盛の息子清宗が庭に駆け込んでくる。
平家の天下で何不自由なく甘やかされて育った風情の子供。清宗。
「おお、どこ行っとったんじゃ、心配しとったぞ。」
駆け寄る宗盛に清宗は「あちらの蔵で見つけましてござります。」
と、あるものを差し出す。
それを見た宗盛は固まる。
清宗「この竹馬、壊れておりまする。父上、直せまするか。」

それは宗盛にとっては大叔父にあたる忠正が作った竹馬。
斬首の日の朝、宗盛は無邪気に「竹馬(の修繕)はできましてござりまするか?」と尋ね、忠正は「すまぬ、できなんだ。」と別れの涙も乾かぬ顔で答えた(第23回)。
「それでは、お帰りになりましたら。」と言った宗盛だったが、忠正はそれきり帰ってはこなかった。
彼の知らないところで、父清盛は平氏の棟梁として「叔父を斬る」という修羅の儀式を全うしていた。
何も知らされていなかった自分。何も察することのできなかった自分。
そして今、棟梁の器ではないと重々自覚している自分。
そんな惨めな自分を見せられた気がしたのだろうか。

宗盛は憤然として立って行く。
馬のいななき、源仲綱が愛馬とともにやってきている。
「宴と伺い、参上つかまつりましてござります。」
「これがそなたの自慢の馬か。」
「愛馬木下(このした)にござります。」
「仲綱、木下を私に貸せ。」
「おそれながら、それだけは。」
「よこせと言うておるのではない。借りるだけじゃ。」
「お許しくださりませ。これは私の命よりも大事な愛馬。」
「私に逆らうてただですむと思うてか!」

ナ「宗盛は仲綱に木下を返さなかった。」

仲綱「宗盛様は木下の名を仲綱と改め、ひどい辱めを与えておられるそうにござります。木下の尻に焼き印まで押して。」
頼政「こらえよ。平家に逆らうては生きてはいかれぬ世じゃ。」
仲綱「父上。我ら親子は木下のようなものにござりますね。平家の犬と焼き印を押される辱めを受けても、源氏の魂を捨てて生きてゆかねばならぬのですゆえ。」
(「王家の犬」だった平家、「平家の犬」となった源氏。)
仲綱の手に握られているのは愛用の鞭?
頼政に八条院の声が甦る。
「このまま一生を終えてよいのか。そなた、源氏随一の武者であろう。」
(仲綱の木下を宗盛が奪って虐待した逸話は「平家物語」に語られているけれど、忠正の竹馬エピソードがここにつながると誰があのとき予想したでしょう。
宗盛の棟梁としての危うさがあまりにもわかりやすく描かれた形。)





【清盛の欲と「弔い」の事】

福原。
祇王祇女を侍らせ双六に興じる清盛。
時忠「新しき帝の即位の儀は四月二十二日内裏にて執り行うと決まりました。」
清盛「万事遺漏なきよう支度の上、滞りなく執り行えと皆に伝えよ。」
時忠「承知。」
祇王が箸で清盛に何か食べさせてやる。
時忠は苦笑しつつ、
「いやはや、果てしのないものにござりますな。人の欲というものは。莫大な財を操り、国の頂に立ち、御孫君を帝になさってもまだまだ欲しゅうござりますか。酒も若いおなごも。」
清盛は答える。
「欲こそがおのこの力の源。と言うたは家貞であったな、盛国。わしは手に入れてみせる。この世の全てを。
時忠が「頼もしや。では、これにて。」と笑って立ち上がると、清盛、
「時子には言うでないぞ。」
「無論でございます。」
退室する時忠の背に、清盛の声がする。
「祇女は強くてかなわんのう。」
笑う白拍子たち。
時忠は振り返って清盛の遊ぶ姿を見ながら、盛国に言う。
「あれは欲なのであろうか。弔いのようにも見える。重盛や兎丸、その他さまざまな方々の。」
盛国は振り返らず、表情も変えずに言う。
「それも欲のうちにござりましょう。どんなきれいごとも欲がなければ始まりませぬゆえ。」
時忠は去る。
清盛は遊び続ける。






【以仁王の令旨の事】

八条院暲子と以仁王のところに源頼政と仲綱。
庭に山伏の姿をした男たちが平伏する。
暲子「新宮十郎行家。先の源氏の棟梁為義が子、義朝が弟にござります。」
行家「源行家にござります。平治の戦に敗れ、その後平家の追手から逃れ、熊野に身を潜めておりました。」
暲子「ことほどさように源氏の魂はこの国のあちこちに潜んでおりましょう。」
そして。以仁王に暲子が言う。
「令旨をお出しあそばされませ。諸国の源氏に向けて、平家打倒の令旨を。」
(なお、行家の従者として山伏の扮装でドラマ考証担当の本郷和人氏が出演。)



福原。
白拍子の赤い扇を手に、おどけた顔で舞う清盛。
祇王祇女の笑いさざめく声。
それを見ている盛国。



ナ「治承四年四月二十二日。安徳帝の即位の儀が行われた。」
きょろきょろしながら歩く安徳帝のなんと愛らしいこと(二回目)。



清盛は舞をやめて祇王の膝に倒れこむ。
「ああ、祇王。わしの孫が帝になったのじゃ。」
「お酒が過ぎまする。」
「何を。かようにめでたきときに。ほれ、早う注げ。」
祇王の膝枕で横たわった清盛、桃色の祇王に金色の清盛、まるで極楽の絵のようだが。
そこへ家来が。
「ご無礼をつかまつります。また白拍子がお目通りを願い出ております。」
清盛は聞こえないのか、祇王の膝枕で戯れのように尋ねる。
「祇王、わしは誰じゃ。言うてみよ。」
暗転。



漆黒の画面に白抜きの文字。

<東海東山北陸の三道諸国源氏ならびに軍兵らに下命する。>

以仁王の令旨。
高らかに流れ出す「アクアタルカス」。
令旨が読み上げられる。

<清盛入道と平宗盛らは 権勢に任せて凶徒に命じて国を滅ぼし
百官万民を悩ませ 五畿七道の国々を不当に支配し
法皇を幽閉し 廷臣を流罪に処し 命を断つなどした。
財物を掠め取り 国を領有し 官職を奪い与え 
功なき者を賞し 罪なき者を罰している。>

以仁が令旨をしたためてゆく。
清盛の前には一人の白拍子が現れ、赤い扇に隠した顔をあらわにする。
一方、安徳帝即位の儀は、滞りなく進んでいる。
そろって乾杯する公卿たちを見つめる安徳帝のなんと愛らしいこと(三回目)。

<百王の継承を経ち 摂関を抑え 帝や院に逆らい
仏法を滅ぼすことは前代未聞のことである。
そのため天地はみな悲しみ 民はみな愁いている。
そこで私は 法皇様の第三の皇子として 
天武帝の昔にならって
王位を奪うものを追討し
仏法を滅ぼすものを打ち滅ぼそうと思う。>

書き上げられると恭しく布に包まれ箱に納められて、源行家に託される令旨。

「諸国はこの命令どおり実行せよ!」
以仁の力強い言葉。



その瞬間、福原の白拍子は扇を打ち、歌いながら舞い始める。
清盛の目が釘付けになる。
白い装束に赤の烏帽子、男の姿をしているが、その肌の白、唇の赤、切れ長の目。
祇王祇女の可憐さとは別種の妖艶な、そしてどこか儚げな美しさ。
藤の枝を手に舞う。

  「君を初めてみるをりは 千代も経ぬべし姫小松」



令旨が伊豆の頼朝のもとに届く。
頼朝は目を見張る。

読み上げる頼朝。
「そこで源氏の者 藤原氏の者や さきざきより三道諸国に勇士として名高い者は 追討に協力せよ。
もし同心しなければ 清盛に従う者に準じて 死罪 流罪 追討 拘禁の刑罰を行う。
もし特に功績のあった者はまずは諸国の使節に伝えおき ご即位後に必ず望みどおりの褒賞を与える。
諸国はこの命令どおりに実行せよ。」



福原。
白拍子の舞は続く。
清盛は惚けたように目を奪われたまま。
 
  「おまえの池なる亀岡に 鶴こそ群れゐて遊ぶめれ」

流し目で清盛を見やりながら、白拍子が歌い終える。
「遊びをせんとや生まれけむ」聞こえてくる子供の歌声は清盛の心の中に響くのか。
「戯れせんとや生まれけん」
清盛は立ち上がり、何か見つけたような顔で白拍子を見つめ、抱き上げて連れ去る。
「遊ぶ子供の声聞けば 我が身さへこそゆるがるれ」
眉をひそめ見ている盛国。
祇女が振り返ると祇王はただ言葉もなく涙を一筋流している。



伊豆。
頼朝の手が震える。
時忠、藤九郎、政子が見守る。

ナ「時が迫っていた。再び源氏が立ち上がり平家を攻める。その時が。
そのとき、平清盛は。」



清盛の寝所。
(ここの調度がまた素晴らしいこと)
清盛の膝枕で横たわる白拍子。
清盛がその体を撫でながら訊く。
「名は。」
「仏と呼ばれておりまする。」
「仏。わしはこの世の頂におる。次は遷都じゃ。我ら平家の都福原をこの国の都とする。」
「まあ。」
ここは、わしの世じゃ。
そう言ったときの清盛は鏡に映った後ろ姿。
闇に浮かび上がる白い夜着。

ナ「平清盛はたった一人で暗闇の中にいた。」









<azukki的 見どころ>

今回は特に、もう、どこをとっても美しい絵のようで、何度も繰り返して見たいほどですが。
まず、二つの「金」。

老いを重ねていく清盛、メイクの素晴らしさもありますが、老いの演技が図抜けています。
前回も書きましたが、松山ケンイチ氏(現在27歳!)は、このドラマの中でリアルに老いていっているようにみえる。
(クランクアップ時の彼、丸坊主で肌もつるつるつやつやの姿を見て驚愕しました、これが同じ人物なのかと・・・。)
今回からの金色の裘代は、人物デザイン的には、謙虚さの全くない、「“おごる平家”を象徴するような衣装」とのこと。 
清盛のいる福原は今回、常に夕暮れのような光に包まれている。
清盛の死まで、あと一年。
その身にまとった金色は、熟れ落ちる前の最後の輝きのようです。

一方、奥州藤原秀衡の金。
黄金郷平泉の豊かな金。
こちらも金づくめなのですが、地道に財を築き上げてきた感が見える、地に足のついた豪奢。
義経を支える有力な後ろ盾として、揺るぎない「北の帝王」感が漂います。
京本政樹氏の渾身の「外道のわざ」、その一言の重み。
なお、このシーン、金の鳳凰(あるいは鶏)に雪が舞う絵は言うまでもなく私好みです。
赤い傘もインパクト大。

さて、仏御前が今回登場。
それを木村多江さんが演じる。
死体役があまりに多いので、いっそ日本一死体が似合う女優になりたいと言っていた木村多江さんがまさかの「仏」役。
彼女が演じてきた役柄から受ける薄幸そうなイメージ、さらに言うなら半分冥界に属する人というイメージ(誉めています)。
それがこのドラマにどう溶け込むのだろう。
そのことも含め、今回一番の見どころは、以仁王の令旨が下されるくだりでした。
・以仁王の令旨。
・清盛のもとに現れる仏御前。
・安徳帝の即位式。
この3つのシーンが同時進行。
異なる場を交互に見せる手法は、このドラマで何度も見てきましたが、今回も鮮烈。
酒池肉林(←誇張)しつつ、この世の全てを我が意のままにしようとする清盛。
頑固で堪え性がなく怒りっぽい清盛。
最高権力者の傲慢さと老いゆえの頑迷さを見せつけ、誰の共感も得られそうにない人間として容赦なく描かれている。
装束が豪華になったぶん人間が卑小に見える皮肉。
宗盛の理不尽な蛮行と相まって、最早誰もがこの奢る平家を止めなければという気持ちになってゆく(はず)。
そこへ鮮やかに「アクアタルカス」。
令旨の朗誦。
このドラマで今まで描いてきたこと、清盛の今までの道のりを、全て否定する「以仁王の令旨」。
その一語一語に溜飲を下げる日が来ようとは、登りつめてゆく清盛を見ているときにはとても想像できなかったこと。
そして令旨の発令とともに現れる白拍子「仏」。
仏御前の扇の音とシンクロして、ついに平家打倒が始まる鮮やかさ。
彼女の舞の間に令旨が京から伊豆へ届くはずはないけれど、浦島太郎が竜宮城で極楽三昧遊蕩三昧している間に何百年も時が経っていたことを思えば、うなずけます(←適当です)。
清盛が仏御前を抱き上げて去り、残された祇王が涙する、そこまでの流れがとてもとても美しい。

仏御前も祇王祇女も「平家物語」に登場する人物。
清盛の心も体も瞬時に惹きつける魔性の存在として、今回の仏御前は完璧だった。
仏御前が清盛に会ったとき16歳だったなどというのは逸話にすぎないので、この際忘れてしまうべきでしょう。
彼女を見て清盛に甦る魂の記憶。
母の胎内でも赤子のときにも聞いた「遊びをせんとや」。
清盛は単に所有欲や肉欲にとらわれたのではなく、仏御前に母舞子を見ている、あるいは祇園女御を見ている、つまりは母なるものを見ている・・・
そんなふうにさえ感じさせるのはこの木村多江さんの仏御前でなければならないと思います。
それにしても、白河院が晩年仏法に帰依し、読経しながら往生した(第2回)ように、清盛も晩年となって「仏」にひれ伏すという符合。
ラスト、清盛はついに、あの白河院も後白河院も放った台詞「ここは、わしの世じゃ。」を口にします。
けれども、それを聴いているのは仏御前一人。
そしてその時の二人は鏡に映った姿。いわば虚像。
まるで、それはたちまち消え去ってしまう幻想だと言わんばかりに。


ところで、今回、最もドキリとしたのは、時忠の台詞。
「あれは欲なのであろうか。弔いのようにも見える。」
清盛は家貞の「欲こそがおのこの力の源。」(第29回)という言葉を引き合いに出しているけれど、頂へ登り詰めていくときの清盛の欲がプラスの欲だとすれば、今の清盛がとらわれているのはマイナスの欲。
前へ踏み出すのではない、喪失感や欠落感を埋めるための欲。
時忠は平家の暗黒の部分を背負っている。
自分の放った禿が兎丸を死に追いやるという残酷を見てきている。
だからこそ、清盛の酒池肉林の裏にある痛みに寄り添える。
酒におなごに耽溺しているかのように見えて、実はそれらを全く楽しんでいない清盛の痛々しさを「弔い」と表現する。
人の愚かさ弱さをただ見せるのでなく、なぜそうするのか、に目を向けさせる物語は、優しいのか残酷なのか、この「弔い」の語で、宗盛の乱行も腑に落ちるし(重盛の不在が一門にとっていかに大きいか)、清盛が今まで乗り越えてきた死屍累々を思い起こさずにはいられない。
しかし話はそこで終わらず、「弔い」などと「きれいごと」を言っても欲は欲だ、と突き放す盛国がいる。
その台詞はかつて時忠が時子に言った「どんなきれいごとも欲ってものがなければ始まらない」(第12回)の繰り返し、それをまさか盛国が口にするとは誰が予想したでしょう。
そう、盛国、彼の今回の清盛へのまなざしの厳しさよ。


「平清盛はたった一人で暗闇の中にいた。」という結びのナレーション。
国の頂に立ったものの、どうやら前回ラストで画面を覆った暗闇の中にいるらしい清盛。
面白く生きるはずだった彼が今、全く面白そうでなく、いたたまれない。
帝を意のままにすること、福原を平家の都=国の都にすること、そのためには手段を選ばない清盛、色々なことが見えなくなっている。
そんな清盛が暗闇で見つけた「仏」は、果たして清盛を救うのか。
頼朝が伊豆から放つ矢は清盛を射抜くことができるのか。
次回は「頼朝挙兵」、予告編では清盛が久々に宋剣を手にすると見えました。
次回もきっと怒濤の展開。きっと、さらに、加速する。
覚悟は、いいですか(二回目)。
by azukki_bio | 2012-11-21 20:13 | 平清盛 | Comments(0)