azukki的. 姉妹猫mao(黒)とmeo(銀)、保護猫ノア(黒白) 空と花と石と美しいもの。

『平清盛』第40回「はかなき歌」覚書


厳島神社の回廊を清盛が歩くさまはそれだけで感慨深いものがありました。
ドラマの公式Tweetによると、今回は「滋子をフューチャーした、しっとりとしたお話ですが、終わりの始まり、波乱の序曲のような回」とのこと。
まさにそのとおりで美しく抒情的に語られるのだけれど、最後には静かな、しかし決定的な悲劇が待ち受けていました。


<注>
『平清盛』の記事は、覚書とうたっているように、台詞を軸に、見て感じたままを書き留めたものです。
台詞はドラマそのままですが、それ以外のところは主観や妄想が多分に入っています。
あくまでも一解釈とご笑覧くだされば幸いです。
「台詞集プラス妄想」と思っていただければ。







アバンタイトル。

「清盛と後白河院のかけ橋」としての建春門院滋子を振り返る。
「清盛の義妹滋子。後白河院が唯一愛した妃です。権勢を手に入れた滋子は我が子(高倉帝)を帝の座につけ、清盛の娘徳子をその妃に迎えます。平家一門のために立ち回る一方で、平家の財を王家にもたらし、双方を支えてきました。」
後白河法皇「ここはわしの世じゃ。」
清盛「赤子にこの国を託すわけにはゆかぬ。」
「清盛と後白河院、ふたりの権力者の均衡は滋子によってかろうじて保たれていたのです。」






本編。

【厳島参詣の事】

福原、大輪田泊。
砂浜の向こうに宋船が見える。

ナレーション「承安四(1174)年、清盛悲願の大輪田泊が完成し、宋との交易が盛んに行なわれるようになった。」

福原の館。
庭に宋からの品々、西光が品定め。
清盛「何か気に入った品はござりますか。」
西光「では、これを。」巻物一式を指す。
清盛「さすが、お目が高い。それは馬一頭の値のもの。されど宋銭にすれば十貫。これだけにござります。」
手のひらに乗るほどの宋銭で支払いがなされるのを見て、西光、
「なるほど、これが都で当たり前になれば物の売り買いがすみやかに流れましょうな。」
盛国「これをお預けいたしまする。」一瓶の宋銭を西光に託す。
「法皇様の側近であらせられる西光殿が宋銭の値打ちを請け負ってくださり、その使いよさを知らしめてくださいますれば、銭での商いもすみやかに広まりましょう。」
清盛「お肩入れくだされば、これほど心強いことはござりませぬ。」
西光「無論、亡き我が主が生きておれば、そうしたでしょうからな。」
目を閉じ、亡き信西を思い浮かべるらしい西光の穏やかな表情。
西光を見送り、清盛は柱に架けた兎丸の「はっぷり」を仰ぎ見て言う。
「兎丸。博多を都の隣に持ってきたぞ。」

清盛を桃李と小兎丸、春夜(桃李の兄)が訪ねてきている。
清盛「おお、春夜、着いておったか。」
春夜「これは清盛様、お久しゅうございます。」
清盛「おお、小兎、元気そうじゃな。」
小兎丸「はい。」
父の死の経緯を知らされていないらしい小兎丸は笑顔だが、桃李の表情には、未だわだかまりがある様子。
清盛「そなたに来てもろうたは他でもない。近く厳島の社へ参詣を考えておる。粗相なきよう支度を進めよ。」
春夜「どなたが参詣なさるのですか。」
清盛「法皇様ならびに建春門院様じゃ。」
盛国「この大輪田泊より唐船に乗っていただき、厳島まで渡っていただくつもりにござりまする。」
清盛「泊ができ、音戸の瀬戸を削ったことにより唐船が自在に心地よく西海を行き来できることを御身をもって知っていただき、そして厳島の社で祈願していただきたい。」
春夜「何を?」
清盛「まことに武士が頂に立つ世となるために欠かせぬものの誕生をじゃ。」


高倉帝の中宮となった徳子。
滋子に詫びている。
「義母上。申し訳ござりませぬ。」
建春門院滋子「何を仰せになります。」
徳子「入内して三年、未だお役目が果たせませぬ。」
場違いなほどの明るい声で弾けるように滋子が笑う。
「帝は未だ御年十四。あせることはござりませぬ。」
徳子「されど」
滋子「近く法皇様とともに厳島へ参ります。」
徳子「厳島?」

安芸、厳島の社。
海に浮かぶ鳥居の向こうに唐船の図。

ナ「同年三月、後白河院と建春門院様ご一行が厳島の社にご参詣あそばされた。厳島明神は観音様で子宝の祈願にもふさわしい社である。このご参詣を契機に厳島の社は平家の氏神たるにとどまらず、すなわち国のための神となっていった。」

回廊をゆく清盛と滋子の図。

厳島社司佐伯景弘が法皇を迎える。
「ようこそおいでいただきました。田舎ゆえ諸事行き届きませぬが、海、山の幸とあれなる大鳥居の景色にておもてなし仕りまする。」
法皇「まこと、面白き趣向の社じゃ。古来、寺の塔などは上へ上へと登るように築かれておる。されどこの社、横へ横へと広がっておる。」
清盛「それこそが私のめざす国の姿にござりますゆえ。」
そう言って、宋銭を法皇に手渡す清盛。
「この小さきものが西へ東へ行き渡れば、国はめざましく豊かになりましょう。そして、この厳島明神のご加護があり、帝に皇子様がお生まれになれば、王家と平家の絆はいっそう盤石。成親殿の義理の弟たる嫡男重盛は無論のこと、ここにおります宗盛、知盛、重衡、我ら平家一門、どこまでもおそばにあってお支えする所存にござります。」

盛国と回廊を歩く清盛。裸足。
「盛国。気がついておったか。年が明ければわしは五十八になる。我が父忠盛が世を去った年じゃ。時は過ぎたものよ。父上が世を去って二十一年。保元の戦より十八年。平治の戦より十五年。時は移り、思い描く新しき国の姿も少しずつ少しずつ変転しながら形作られておる。今、わしにははっきりと見えているのだ。北は蝦夷地から南は鎮西まで、人や物が連なり、豊かに暮らすこの国の姿が。」
(五十を迎えたときは自分の年を自覚していなかった清盛が、大病を経て出家をして、今や老いと寿命を意識している、ということなのだろう。
もう時間がない。生き急いでいる清盛。)

波の音を近く聞きながら、くつろぐ法皇と滋子。
法皇「どうにも思い描けぬ。あの社のごとき、横へ横へと広がる国の形というものが。」
滋子「誰も見たことのないものを思い描けませぬは道理。」
法皇「だが、あやつは思い描いておる。いつのまにか、あやつはわしの先へと行ってしもうておるのか。」
滋子「よいではござりませぬか。入道殿が何を思うていようと。法皇様は法皇様の思い描く世をめざせばよいのです。」
法皇「わしの。」
滋子「ご案じなされますな。滋子がおります。王家と平家を取り持つは我が務めにござります。」







【頼朝、政子に叱咤される事】

伊豆、蛭ヶ小島。
硯を洗う頼朝。
ふと部屋の隅、髭切の太刀の箱に目をとめる。

回想。
「まことの武士はいかなるものか、見せてやる。」
あの日、清盛が頼朝の目の前に突き立てた髭切。
義朝からではなく、奇しくも清盛から授けられた源氏重代の太刀とともに自分は伊豆へ流されてきた。

そこへ藤九郎が魚獲りから戻ってきたらしい。
「ああ、殿、道具の手入れならば私がいたします。」
「よいのだ、ほかにやることもないし。」
「ときに、殿、上総常澄殿が亡くなられたそうにござります。」

北条時政の館。
佐々木秀義「まこと急なことであったのう。」
三浦義明「大番役のつとめが老体にこたえたのであろう。」
時政「おのれは飢えても家人たちは飢えさせぬ。そういうお方にござりましたゆえな。」
義明「都と東国を行き来すればするほど、我らの暮らしは苦しゅうなる。それが都暮らしの平家にはわからぬのじゃ。」
成長して前髪も伸び、めっきり女らしくなった政子が酒をつぐ。
庭に犬の声、藤九郎の声。
「ごめんくださりませ。しばらくのご無沙汰にござりました。どうぞこれを弔い酒のおともに。」
時政「それはわざわざ痛み入る。」
藤九郎の傍らの頼朝を見つめる政子のまなざし。
「では、これにて」と藤九郎も頼朝も去ろうとすると、
義明「佐殿!」
頼朝が立ち止まる。
義明「源氏の棟梁義朝様のご嫡男、頼朝殿にござりましょう。亡くなった常澄殿も長らく義朝様にお仕えしてきた武将。このままだと源氏ゆかりの者はことごとく平家に滅ぼされましょう。」
頼朝「私には関わりのないことにて。」踵を返し立ち去る。
義明「佐殿!」

政子が頼朝を追ってくる。
「もし!佐殿!」
藤九郎「時政殿の娘御にござります。」
政子「まこと、このままでよいのでござりますか。親兄弟を殺され、かような僻地へ流され、我が子まで殺されてこのまま朽ち果てていくおつもりでござりますか。」
頼朝「なんと不躾なおなごじゃ。」
部屋に入る頼朝に追いすがる。
「失敬な。離せ!」
頼朝が政子を振りほどいた拍子に政子は倒れ、太刀の箱に当たり髭切が転がる。
「すまぬ。大事ないか。」
「こちらこそご無礼を。申し訳ござりませぬ。」
政子が髭切を元に戻そうとすると、頼朝、「触るでない!」鋭く大声を出す。
その剣幕にひるむ政子。
「藤九郎。仕舞うておけ。」
憤然と出て行く頼朝を見送る政子。
(髭切の存在を思い出した頼朝だが、その箱は奇しくも政子によって開けられた。
「触るでない!」源氏の嫡男としての矜持がめざめたか。)




【平家のおのこのあり方の事】

京、重盛の館。
重盛の息子維盛と資盛に大叔父経盛(清盛の弟)が舞の稽古をつけている。
重盛「叔父上、ありがとうござります。」
経盛「何、維盛も資盛も筋がよいゆえ、わしも心楽しいわ。」
(「殿下乗合事件」で、この二人は武芸よりも舞や管弦が好きと言っていた。)
重盛「恐れ入ります。」
経盛「今や我らは王家に連なる一門。いかなる場でも恥をかかぬよう、孫の代にはしかと仕込めと福原の兄上より仰せつかっておるゆえ。」
重盛「とりわけ法皇様は芸事を好まれるお方。いつかきっとご披露できるよう、しかと稽古せよ。」

庭では忠清が知盛、重衡に弓の稽古をしている。
忠清「お二人ともお見事にござります。されど、戦の折には敵はこのようにじっとしていてはくれませぬ。」
重衡は笑って屈託なく、言う。
「戦なんぞ、起きるのか。今や平家の力で王家を支え、宋との交易も始まって世は治まろうとしておる。いったい、いつ、誰が何のために戦なんぞ起こすというのじゃ。」
忠清「されど、平家は武門。武士ならばいついかなる世においても鍛錬は怠るべきではございません。」
知盛「忠清の申すとおりじゃ。」
忠清「おお、知盛様。」
知盛「だが、武芸一辺倒の暮らしからの脱却をめざして一門がここまで登ってきたもまた、まこと。許せ、武力だけでは平家のおのことしてつとまらぬのだ。」
そう言って去る二人、残された忠清はうつむいて淋しげ。
源頼政「忠清殿、何となされた。」
忠清はあわてて涙を拭い「何でもござりませぬ。頼政殿こそ、本日は。」
頼政「法皇様より今様合わせのお召しがござりましたゆえ、経盛さまをお誘いに。」
忠清「まこと、武力だけでは渡っていけぬ世になったのですな。」






【清盛と西光の確執の事】

西光「見事なものじゃ。法皇様もお喜びになろう。」
絵巻を広げて西光が感嘆する。
絵師「ありがとうござります。」
西光「ご苦労であった。」
西光は宋銭を絵師に与える。
絵師「五貫、確かに頂戴いたしましてござります。」
西光「まこと銭とは便利なもの。もっと使うて世に巡らせるがよい。」
(この絵師、「あの」ばんばひろふみさんです。)

福原の館。
清盛「ご尽力、痛み入る。」
西光「何。ときに、入道殿。今日伺うたのは他でもない、相撲節会のことにござりまする。かつての保元の戦の後、亡き我が主信西入道が甦らせたもの。この夏、再び内裏にて行なう運びとなりました。あの時のごとく趣向を凝らした膳の支度を請け合うてくれましょうな。ここにおりますは我が子師高、師経。」
清盛「申し訳ござりませぬが、西光殿、わしは今、宮中行事にうつつを抜かしている暇はござらぬ。」
西光の顔色が変わる(というか激変する)。
「うつつを、抜かす、ですと?」
清盛「私の務めはここ福原にて宋との取引をいっそう盛んにすること。形ばかりの行事なんぞになげうつ財も時もござりませぬ。」
西光は立ち上がって怒鳴る。
「形ばかりとは何ごとぞ!内裏を安泰に保つことは何よりの大事と我が主信西は」
清盛「さよう、信西殿が生きておられれば、我が国作りこそが何よりの大事とおわかりくだされたでしょう。」
怒りに震えて去る西光。
申し出を断られたことへの怒りよりも、清盛の、信西の志を継ぐのは自分だといわんばかりの物言いに屈辱を感じたように見える。





【梁塵秘抄の事】

後白河院の御所。夜。
「夜昼あけこし手枕は あけても久しくなりにけり
何とて夜昼睦れけむ 長らへざりけるものゆえに」
(夜も蛭もあけてさびしくなった私の手枕は 誰もいなくなってもうずいぶんと経った
どうしてあんなにも夜も昼も睦み合ったのだろう 長く一緒にいられなかったからだ)
今様を歌い上げる法皇のところに滋子がやってくる。
「まあ、恋の歌などお歌いになって。しかも、かつての思い人を恋しがって歌う歌ではござりませぬか。どこのどなたを思うておられるのか。」
法皇「おい、これは今様ぞ。」
滋子はすねて顔を扇で隠す、と思いきや、扇の陰から笑い声が漏れる。
法皇「さては戯れか。こやつめ。」
滋子は笑い出し、法皇の側に座る。
法皇「わしは今、今様を書きためておる。『梁塵秘抄』じゃ。」
滋子「宋の故事にござりますね。梁(うつばり)の塵(ちり)を動かすほどの声、すなわち美しき歌声の奥義を集めた歌集ということでござりましょう。」
法皇「それもあるが、今様など梁に積もる塵のごときもの。吹けば飛ぶようなものじゃ。清盛の泊のように世に役立つようなものではない。何より歌声は後の世に遺すことはできぬ。だが、それゆえにこそ、わしは今様が好きじゃ。誰にも顧みられることなくとも、いつもそこにあり、そこにいる者を慰めてくれる。楽しませてくれる。わしは今様が好きじゃ。」
滋子は法皇の肩に寄り添う。
「それが法皇様のめざす世にござりますね。法皇様、滋子の心は滋子のもの。そして滋子の心はいつも法皇様のおそばに。法皇様の世が絶えぬことが滋子の望みにござります。」
法皇のやすらいだ表情が印象的。






【滋子、成親と西光を労う事】

ナ「同年七月八日。重盛が右近衛大将に任ぜられた。大臣となるには必ず経ねばならない重職である。」
内裏。
重盛が他の公卿から祝いの言葉を受けるのを成親が見ている。
腹に一物ある表情。
しかし重盛と目が合うと、やわらかな、喜びの表情をたたえて祝う。
「重盛殿。此度はご昇進おめでとうござります。」
重盛「ありがとうござります。」
成親「右近衛大将といえば、かつて中納言信頼様が欲し、それがために戦にまでなった官職。それがこうして我が義弟の手に入り、感慨深うござります。」
歌うような妙なる声、感極まった表情。
重盛「まこと、身に余る務めと心得ております。一心に働く所存にござります。では。」
重盛が行くと成親の表情は憎々しげなものに変わる。
庭に西光の声。
「相撲人の控えの座は左はここ、右はこことする。」
成親「西光殿。ご精が出ますな。相撲節会ですか、懐かしゅうござりますな。」
先ほどの鈴を転がすような声とは似ても似つかぬ低い声。
西光「あの頃とは何もかも違うておるわ。」
成親「何より違うは平家のありよう。」
そう言ったとき、西光の目が光る。
成親「やはり西光殿も。実は私もいささか面白うないことがござりましてな。」
西光「どう転んでもおのれの身は安泰、ではござりませなんだかな。」
成親「我が身が蔑ろになるとなれば話は別。」
西光「つまるところ、平家は慢心しておるのだ。」

滋子がその成親と西光を招き酒を振る舞う。
滋子「遠慮することはないぞ。飲むがよい。」
滋子の意をはかりかねるのか、ためらいがある二人に
「私が酌をいたさねば飲めぬか。」
成親・西光「いやいやいやいや。」(唱和が見事。)
成親「滅相もないことにござります。」
西光「いただきます。」
滋子「そなたたちは長年よう仕えてくれておる。入道殿の娘御が中宮となり平家の力は強まるばかり。そなたたちにも面白いことばかりではあるまい。されど、どうか腐らず、ともに法皇様と入道殿の間を取り持ってはくれぬか。成親の柔和さ、西光の聡明さは法皇様を戴く世に欠かせぬもの。どうかこの私に力を貸しておくれ。」
西光「女院様の仰せとあらば。」
二人はそろって一礼する。
滋子の言葉は二人に響いた。
滋子「さあ、そなたたちも存分に飲むがよい。このまま宴としようぞ。」






【後白河院の五十の宴の事】

そのまま宴となったかのように、楽の音が響くが、こちらは法皇の五十の賀の宴の様子。

ナ「安元二(1176)年。後白河院の御年五十の祝いの宴が盛大に催された。
芸事好きの後白河院らしく歌や楽を楽しむ宴が幾日にもわたって行なわれた。
平家一門も皆参じ、祝いの楽や舞などを献上した。
平家が押しも押されぬ公卿となり、それが後白河院の世を支えている、
その形がはっきりと示された宴でもあった。」

経盛の笛を吹く晴れ姿。

清盛「このたびはおめでとうござります。私に似ず、我が子や孫たちは歌も舞もよういたします。今後とも何とぞお引き立てを。」
一門を引き連れて祝いの口上を述べる清盛。
滋子が立ち上がり、清盛に手づから酌をする。
法皇にも。
王家と平家を取り持つ証。
法皇「この世に生まれて五十年。そなたと出会うて四十年近うなる。ようようわかったことは、わしのめざす世にそなたは欠かせず、そなたのめざす世にわしは欠かせぬ。これより先もともに登ろうぞ。誰も見たことのない高みへ。」
清盛「この上なき誉れにて。」
酒を飲み干す二人。
清盛「法皇様の世が末永く栄えますよう、我が孫維盛資盛より祝いの舞を献上し奉ります。」
二人の間に眩いほどの光が差しているのが象徴的。

維盛、資盛、青海波の舞を舞う。
桜の花びらも舞う。

舞楽の流れる中、シーンは夜。
庭に咲き乱れる芍薬の花。
芍薬は、彼女が婚礼の日に波打つ巻き髪に飾った花。
今、白の夜着に芍薬の色の袿を重ねた滋子、盃を手に月を見上げているのか。
白に銀を重ねた法皇が近づいてくる。

舞のシーン。

二人の閨には芍薬が敷き詰められている。
滋子の巻き髪に触れる法皇。
初めて会った日のように。
「滋子の心は滋子のもの。そして滋子の心はいつも法皇様のおそばに。」
二人は抱き合う。
雷の音。
雨の音。






【滋子臨終の事】

雨の音。
何かを堪えた表情の法皇。
泣き崩れる健寿御前。
押し黙った西光、成親。
上西門院統子が入ってくる。
「滋子。」
横たわる滋子の亡骸。
滋子の傍らで、放置された子供の表情の法皇。
酒を口に含み、滋子の口につける。
成親が「法皇様!」と咎めるのは死穢を恐れてか、あまりの突飛な行動に驚いてなのか。

ナ「安元二(1176)年七月八日。建春門院滋子様が三十五歳の若さで突如世を去られた。」

知らせを聞いた時子は思わず崩れるが気丈に言う。
「悔いなき人生だったであろう。おのが光る君のために捧げたのじゃから。」
時忠「姉上。ことはそれだけのことではござりませぬぞ。今、世を去るには滋子はあまりにも優れた治天の君の妃にござりました。」
宗盛は泣いている。時子も泣いている。
時忠は兄として妹の死を悲しむだけでなく、現実的に、平家と王家を取り持つ存在がなくなったことを大いに危惧する様子。

福原の清盛も知らせを聞く。
「盛国。建春門院様の死は朝廷のあり方を大きく変えよう。だが我が政は断じて変わらぬ。変わらぬ道を進みゆくのみ。それこそが我ら平家と王家のつながりに心を砕いてこられた建春門院様への弔いじゃ。」

「夜昼あけこし手枕は あけても久しくなりにけり」
月の光を浴びて今様を歌う法皇。
滋子と初めて会ったのも、こんな月の明るい夜だった。
今様を書きつけた紙を風が床に散らす。
まるで梁の上の塵のよう。
「何とて夜昼睦れけむ 長らへざりけるものゆえに」
消え入るように歌い終えたあと、響き渡る高笑い。
そう、法皇は嬉しいときも哀しいときも怒っているときも笑う人なのだった。

ナ「建春門院様の死という賽の目が清盛と後白河院の双六遊びのゆくえを大きく変えることとなる。」

狂ったような高笑いとともに涙を流す法皇。
賽子(さいころ)を振る音が聞こえる。









<azukki的 見どころ>

このドラマには、毎回感じるのですが、一話完結的な構成の巧みさがあると思います。
全50話にわたる一大絵巻を繰り広げつつ、さまざまな群像劇が時空を超えて呼応し絡み合いつつ、一話ごと区切ってみてもそれはひとつの「おはなし」になっている。
今回でいえば、滋子をクローズアップするエピソードを積み上げたと思いきや、滋子の死で一気に突き落とすというカタストロフィで終える、残酷な物語り。

西光や成親の平家に対する嫉妬、怒りなども描いているから、鹿ヶ谷の変への予兆は充分なのだけれど、滋子の存在で丸くおさまったかに見える。
さらに、法皇の五十の賀で平家の栄華を、その平家と法皇が手を結ぶさまを、滋子の酌で象徴的に見せる。
平家の未来を背負うはずの維盛資盛の清々しい舞とともに、法皇と滋子の終わらない蜜月を見せる。
平家の栄華咲き誇る瞬間、芍薬の花に包まれた二人の幸福な瞬間から急転直下、滋子の死へ。
この急展開は「あえて」なのだと思う。
平家と王家の均衡が一瞬で危うくなる。
まるで賽の目ひとつで勝負の局面ががらりと変わるような諸行無常。

見どころとしては、西光と成親の百面相が面白かったです。
成親の七色の声は見事です。
また、滋子の装束はこれが見納めと目に焼きつけました。
全身シルバーの後白河法皇と色とりどりの重ねの滋子との組み合わせは尋常でない美しさ。
滋子については、演じる成海璃子さんの現代的なしゃべりが気にならないこともなかったのですが、それもまた「あまりにも優れた治天の君の妃」の人並みはずれた個性、他の誰とも異なった魅力と考えます。
法皇が2回歌う今様、1回目は戯れ、2回目は本心。
この対比は悲しい。
松田翔太氏の今様の歌いぶりはやわらかくて好きです。
最後の高笑いは彼の魂の慟哭。
彼らしい悲しみの表現でした。
(彼のこのような狂気を孕んだ笑い声を聞くのは、久しぶりではないでしょうか。
滋子が登場して以来、聞いてないかもしれません。
滋子によって慰められ封印されていた彼の狂気が、彼女の死により再び蠢き始めたのだとすると・・・。)

このドラマでは政治向きのことはあまり描かれない傾向がありますが、後白河法皇については顕著で、このお方はどうやら政治には興味がない。
彼の興味は今様と、清盛との双六遊びと、滋子。
ここまで潔い人物造型は驚嘆です。
梁の上の塵のように吹けば飛ぶような今様、その歌声を、清盛の泊のように後の世に残すこともできない今様。
そんな今様が好きだ、という法皇。
「それが法皇様のめざす世にござりますね。」と滋子は言うが、いったいどんな世なのだろう。
形に残らないものを愛でるゆとりのある世?
清盛がめざす新しい国作りに欠かせないのが「経済」なら、法皇は「文化」?

今回のサブタイトル「はかなき歌」とは、法皇が編もうとしている『梁塵秘抄』のことであり、二度歌われる「夜昼あけこし手枕は」の歌であり、その歌のとおりにはかなくなった滋子を主旋律として描いた今回の「おはなし」のこと。
しかし、はかないものであるはずの『梁塵秘抄』が現存し、清盛の築いた大輪田泊が残っていないとは、なんと皮肉なことでしょう。

さて、今回もっとも胸打たれたのは、忠清の涙でした。
「戦なんぞ、起こるのか?」という重衡の言葉が重い。
重いです。
by azukki_bio | 2012-10-16 16:15 | 平清盛 | Comments(0)