azukki的. 姉妹猫mao(黒)とmeo(銀)、保護猫ノア(黒白) 空と花と石と美しいもの。

『平清盛』第5回 「海賊討伐」 覚書


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「平清盛」サウンドトラックCD が発売されました。
正統派にしてロック、ダイナミックで繊細。
純粋に音楽だけを聴いていると、ときに、映像とともに聴くよりもエモーショナルだったりします。
テーマ曲はもちろん何度聴いても身震いしますが、平氏のモチーフがチェロで低く力強く奏でられるヴァリエーション「独立」が好きです。
「勇み歌」から「決意」への流れは泣けます。

さて、今回は「海賊討伐」。
いつものように、あらすじそのままではなく、心をひかれた場面に妄想も入った覚書です。










アバンは赤子の映像から。
忠盛、宗子のあいだに平五郎が生まれている。
清盛、家盛の弟になる。
平太、平次、ときて次は平三郎ではないのか、と尋ねる平次(家盛)に、「三と四はよそにおるゆえ」とにこやかに答え、いたずらっぽく忠盛を見やる宗子。
忠盛がちょっときまり悪そうに目をそらし、扇子を口へ当てるような仕草がいい。
平氏の棟梁たるもの、側室のひとりやふたりいてもおかしくない、それが当然のこととして語られるところがさりげなくうまい。
こわごわ赤子を抱いて思わず顔がほころぶ清盛。
そしてそれを微笑み見つめる忠盛。
忠盛が赤子の清盛を抱いて平太と呼びかけた第1回の美しいシーンが蘇る。






そして、猫である。
御所の庭に猫がいる。
三毛である。
美しいのである。
この猫、佐藤義清(後の西行)邸で餌を与えられ義清の膝でくつろいでいる。
このまま義清に飼われるのかどうかわからないが、「源氏物語」で柏木が女三宮に一目惚れしたあと、彼女の猫を手に入れて溺愛したエピソードを思い出す。
西行と璋子の行末を思えば、またしても「源氏物語」のイメージがここに重ねられているかもしれない。
が、ここはそういう色っぽいシーンではなく、清盛・義朝・義清の3人の若者の顔合わせ的な場になっている。

「武士として強く生きる」という義朝。

「美しさを求めて生きる」という義清。

「矢は、的の中心に当たるのが最も美しく、歌は、そこにふさわしき言葉が選ばれ見事に組み合わされたときこそ最も美しい。
いかなる世においても、美しく生きることが私の志だ。」

義清の文武両道は出世のためではなく、美しく生きるための道なのである。
他のふたりにはたぶんその意味は理解できていない。
「どのような志をもって生きるか」
清盛はあまり深くは考えていないふうに「面白う生きる」と言い放つ。
三者三様。これがのちのち伏線になっていくのかもしれない。

ちなみに、「美しく生きる」という義清の住まいは、よく見れば庭には網代垣、前栽も趣味よく整えられている。
部屋のしつらいは派手ではないが、黒っぽい巾帳、建具には山水画らしきもの、質素ながら主の美意識を反映していると見える。
歌人西行として名高い彼らしい住まい。






御所では、美福門院得子(なりこ)が登場。
帝への入内を望むという得子の話題から、鳥羽院はふと、またパンドラの箱を開けてしまう。
どうしてこう毎回鳥羽院は自虐的な問いかけを璋子に対してせずにいられないのか。
(璋子と決定的に通じ合えないことを重ねて強調するためである脚本的に。)
折しも御所は雨の夜。
鳥羽院は問う、
「そなたは何ゆえ朕のもとへ入内したのだ?」
璋子の答えはどんなホラーよりもどんなサイコサスペンスよりもおそろしかった。
鳥羽院の全身へ入れ墨するような勢いでその言葉を書き記しておく。
いわく
「法皇さまの仰せゆえにござりました」
低く雷の音が響く。
「あのときは悲しゅうて辛うて、入内したばかりで私は悲しみのあまりに寝ついてしまいました。
すると、あなたさまが仰せになられたのです、法皇さまに会うがよい、と。」
雷は低く鳴り続け、鳥羽院の目の色が変わっていく。
「あの夜、私は久方ぶりに法皇さまにお会いし、そして存分にご寵愛を被りました。」
鳥羽院は声にならない叫びを上げる。
「あれはあなたさまのおはからいにござりましょう?」
さらに傷をえぐるように、あどけなく問いかける璋子。
「なんとお優しい方かと思い、中宮としてあなたさまの子を産む覚悟は決まったのでございまする。」
鳥羽院の張りつめた瞳から涙が溢れ出る。
璋子の表情にはこのたびも何の悪意もなく、無邪気で無垢そのものであり、言葉どおり、本心からそのように思っている。
第1回で鳥羽院が璋子に里下がりを命じたとき、その優しい心遣いを後に悔いることになると語られていた。
水仙のような清らかな心で鳥羽院は璋子を想い、案じていたのだ。
しかし、まさか、自分のもとに入内した后が養父と通じるなどとは、よもや思わないではないか!(鳥羽院の心の声)
あまりのことに鳥羽院は狂人のような笑い声を上げる。
自分を嗤っているのだ。
やがて、その形相が般若のごとくに歪む。
そして叫ぶ。

「おまえのような、おまえのような女をまともに相手にした私が愚かであった。
私の真心が通じぬのも道理。
おまえは人ではない、物の怪だ。
前(さき)の院と同じ、現(うつつ)に生ける物の怪だ!」

そう言い放った鳥羽院こそ物の怪のごとき様相なのだけれど、それだけに、表面はあどけなく美しいとしか見えない璋子の、精神の異形さをきわだたせる。
しかし、その璋子も鳥羽院の剣幕に一瞬顔を歪ませるのである。
それが、罵られて不快感をおぼえたためであるのか、鳥羽院を傷つけたことを悟ったためであるのかは、この段階ではわからない。

外はいよいよ嵐となり、稲妻が走り、雷鳴が轟く中、庭にくずおれる鳥羽院。
それを渡廊で見ているのは得子。 気づく鳥羽院。
「私も物の怪のごときものになろう」
得子を組み敷く鳥羽院。
稲光に浮かび上がる得子の白い顔。
ふっと力を抜いてなすがままになる得子の白い指。
(雨に濡れた鳥羽院の文字通りの濡れ場。)

やがて事後の寝所。
得子の乱れた黒髪。夜目にも白い装束。
我がものとして穢してしまったため「入内はあきらめよ」という鳥羽院。
「これで終わりにござりますか。 上皇さまにござりましょう?」と得子。
(「源氏物語」で、東宮のもとに入内するはずが、光源氏と御所で禁断の逢瀬を持ってしまった朧月夜を想起する。)
鳥羽院と璋子の齟齬を知っているかのような得子は、
「あなたさまはたいそう傷ついておいでです。 あの璋子という福々しげな女によって。」
「福々しげ」と言った。「福々しげ」と。
さらに
「もっと穢してくださりませ。
あなたさまの思いを遂げるため、お役に立てる女にしてくださいませ。」
得子の中で不穏な炎が燃え立つ。
朝廷内の心理劇を本気で書こうとしているらしい、このドラマは。
平安時代の夜の帳と御簾と巾帳に幾重にも包まれた繭の内部のような、あえかな光のなかで。







場面変わって、殿上に高階通憲(後の信西)が正装で登場。
黒い袍の貴族等の中、ひとり鮮やかな緋色が眩しい。
「その緋色、殿上人ではないではないか」と咎められる。
当時、袍の色は位階によって定められていたから、いかにも身分の違う、いかにも場違いな人間が入ってきたという演出。
その彼が痛烈に貴族を糾弾する。
それで貴族を動かすというわけではなく、彼の時勢を見極める才気、権力をもものともせぬ気性をきわだたせた印象。






西海へ、海賊討伐へ向かう平氏一族が赤い幟を立てて京の都を練り歩いていく。
それを見ているうらぶれた風情の源氏の棟梁、緑の木々の隙間から見える赤い幟の鮮やかさ。
赤と緑、補色同士が引き立てあう、一瞬だが美しいシーン。
晴れがましく西へ行く平氏、ひっそりと東へ行く源氏、今回も対照的に描かれる源平の親子。







平氏一族が出払い、がらんとした邸内で語り合う家盛と母。
夏の夕方の光。ヒグラシの声。
「何ゆえ父上と夫婦になられたのか」と問う家盛。
鳥羽院の璋子への問いかけと対をなすかのようである。
宗子ははっきりと答える。
白河院のこと舞子のこと、すべてを聞かされた上で「私が決めたのです。」と。
「痛々しいと思ったから」と。
忠盛が背負ったものの重さを自分も少しでも担いたい、と。
傷ついた鳥羽院のお役に立ちたい、という得子と似ている。
しかし得子は底知れぬ野望を秘めているようであり、破滅的。
宗子は愛の人である。
西日に照らされたその顔の何と神々しいことか。
二人の視線の前に、忠盛の座がある。
たとえ不在でも、平氏の棟梁は常にそこに「いる」のである。






平氏が海賊討伐の地、安芸へ到着。
海戦を甘くみてはいけない、と進言する鱸丸。
生意気を言うな、と伊藤忠清に胸を突かれるがびくともしない鱸丸。
第1回で忠盛に「体の軸ができている」と言われたくだりが生きている。
この脚本、きちんと伏線を張ってそれを編み上げていくのがうまい。

叔父忠正が、清盛に流れる物の怪の血ゆえに愛せない(意訳)といった苦渋の胸の内を当の清盛に向かって吐露する。
一から築きかけている自我の根底を揺るがされた清盛。
思わず自分に問いかける。

「何をしておるのだ、
おれは、こんなところまで来て、何をしておるのだ・・・」

と、迷宮に入っていまいそうになったとき、また、第2回のあのときのように、絶妙の間と軽みでもって答えが返ってくる。

「なんでもよい」
「なんでもよいゆえ・・・ 食わせてくれ」

高階通憲(阿部サダヲ)。
前回は落とし穴から、今回は荷車のむしろの下から現れる。
まあ、ギャグです。いってみれば。
しかしそんな遊びが非常にいいタイミングで、ガス抜きの如く入ってくる。

自らを「天下の大学者」と言ってのける通憲が清盛に言う。
「誰も皆、知らず知らず重き荷を背負うて生きておる。」
「それでもそなたは生きていかねばならぬ。
現に生ける物の怪がごときお方の血という重き荷を背負うて。
そしてそれを与えられたということはそなたにそれだけの力があるということじゃ。
その禍々しくも輝かしいさだめを背負うて道を切り開き、生きていく力じゃ。
そなた自身にとって、平氏にとって、世にとって、
禍(わざわい)となるも宝となるも、そなた次第よ」
まあ、これは予言のようなものなので、書き記しておきます。






海賊討伐というサブタイトルの回ながら、今回は討伐には至らず。
それでも、小舟を揺らす大波、岩陰から「タルカス」とともに現れる巨大な海賊船、それはまるで黒船。
今まで見たこともないような巨大な黒船をただただ驚いて見上げる清盛に、「龍馬伝」でペリーの黒船に遭遇したときの龍馬の咆哮が重なった。







さて、次回は、大河ドラマの制作費を相当つぎこんだという海戦の段。
これを見ずして「平清盛」は語れない。
期待!
Commented by bossa at 2012-02-07 21:57 x
うふ。一番ノリかにゃ^^
azu様の(妄想)語りを第1回から読み直していたのでした。今週はおもしろうございましたねぇ。えぇ、海賊討伐とあって、戦いが次回に持ち越されたのは一本取られてしまいましたが。

冒頭のマツケン、藤木、玉木の3ショットに悶え、鳥羽院と璋子の物の怪のやりとりに怯え、忠正の言葉がズキズキ突き刺さった今回でありました。

「鳥羽院の全身へ入れ墨」とは云い得て妙です。さすがazu様。

お粗末なコメントを失礼いたしました。。。
Commented by azukki_bio at 2012-02-08 18:07
ぼっさちゃん 
一番ノリありがとうございます。
海賊討伐はお預けになったけれど、むしろその方がよかった、と思えるような回でした。
濃かった。
鳥羽たまこの戦いが。
忠正をただの憎らしい叔父上に描かないところがいいですね。
彼も苦しんでいるんだ、という。
人間が書けているなあ、と思います。
もう、どの場面もずっきずっききちゃいます。

もうね、ファンですから。大河ドラマの!
Commented by at 2012-02-08 18:57 x
あずっきさん、こんにちは。
拝見しました。
ああ、もう、ぞくぞくと、惹き込まれてしまって、
平安へ、というあずさまの言葉がしっくりきています。

それにしても、璋子のセリフはほんとうにこわかったデス。。
Commented by azukki_bio at 2012-02-09 20:29
舞ちゃん こんばんは。
平安からよく帰ってこられましたね。
私はしばらく帰れなかったです(笑)
鳥羽たまこの戦いはいつまで続くんでしょうか。
なりこさまも参戦ですよ。
あーこわ。
あー楽しみ。
by azukki_bio | 2012-02-07 21:45 | 平清盛 | Comments(4)